辞書すら疑う翻訳者

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翻訳者が翻訳をするときは、一般の方が翻訳をするときに比べて、はるかに辞書を引く頻度が多いと思います。

 

この辞書を引く頻度や、引き方が翻訳文の出来、不出来に大きくかかわってくるので、それはそれは必至に辞書を引きます。

 

また辞書を引く場合であっても、辞書に書かれている内容をそのまま鵜呑みにできない、というケースも十分に想定されます。

 

言葉は全く同じでも、辞書で使われている用法と、自分が今訳している文章での用法が完全に一致しているとは限らないですからねぇ。

 

今回は、そんなケースについて書きたいと思います。

 

辞書の内容を鵜呑みにできなかった具体例

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ここに「銀行口座に入金があったか確認する」と書かれている日本語の原稿があったとします。

 

「入金する」という動詞がけっこう曲者で、辞書を引いても、しっくりくる用語がなかなか出てこないんですよね。

 

それでもめげずに、オンライン辞書のWeblioの例文検索で「入金」と入力して検索してみると、主に「deposit」という動詞が「入金する」という用語を表現するために使用されていました。

 

例えば以下のような感じです。

・この金額はあなたの口座に入金されます。

This amount will be deposited into your account.

 

しかし、この例文をみても私にはピンときませんでした。

 

なぜかというと、動詞「deposit」は、「入金する」というよりも「(銀行などに)預ける」という意味合いが強いからです。

 

その証拠に、ランダムハウス英語辞典で「deposit」という用語を調べてみると、

Deposit

他動詞

 【1】〈金を〉(銀行に)預金する{in…}(withdraw);〈貴重品などを〉(人に)預ける,寄託する{with…}:

【2】〈金を〉(…の)保証金[担保,手付金]として払う{on, toward…};…の内金を入れる.

【3】・・・

 とあります。

 

これを見ても、やはり「deposit」は「入金する」という意味よりもかなり限定的な意味でしか使用できない、ということがことがお分かりいただけると思います。

 

というわけで、辞書を引いたにもかかわらず、「入金する」という動詞をずばり示す英単語を見つけることができませんでした。

 

ここで原文の「銀行口座に入金があったか確認する」に立ち帰り、この文章の意味を変えずに、ただし入金という日本語を使用せずに、文章を書き換えることにしました。

 

具体的には「銀行口座に何らかの資金が送金されたか確認する」としました。

 

意味は同じですよね。

 

これを英訳すればOKです。

 

Check if any funds were transferred to the bank account

 

としました。

 

 まとめ

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 今回は、「翻訳者は訳出するときにかなりの頻度で辞書を引く」、ということと、「必ずしも辞書に書いてあることを鵜呑みにするわけではない」、ということ、さらに「お目当ての単語が見つからない場合は、原文の方を意味を変えずに少しいじってから訳文を考える、という手段を取る」ということをお話ししてみました。

 

もちろん、仕事には納期があるので、悩むことのできる時間も限られているのですが、こうして単語一つでも悩み始めたら堂々巡りでいつまで考えても結論を出ず、納期が目前に迫っても、一向に仕事ははかどっていない、なんて事態に陥ることはしょっちゅうあります。

 

でも、こうして悩んでおけば、次回同じような問題が出てきたときにすぐ対応できるので、悩んでおくのはかならずしも悪いことではないのかな、とも思っています。(了)

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